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仙台高等裁判所 昭和24年(を)77号 判決

被告人

田嶋留吉

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役壱年及び罰金弍万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

前略

飜つて、職権を以て按ずるに、原判決は刑法第十九條を適用して押收の天幕一枚及びシート五枚の沒收を言渡しているが、この天幕及びシートは原判決が被告人の本件不法所持の目的として連合國軍の財産なりと認定している所のものであるから、原審が認定した事実に從えばこれらは被告人の所有に属するものではなく、之を沒收し得ないものであることは明かで、原判決の右沒收の言渡は不法であるといわなければならず、原判決はこの点において破棄を免れない。

更に又、原判決は昭和二十四年二月二十三日に言渡されたものであるところ、その法令の適用を見ると被告人の所爲は昭和二十二年政令第百六十五号第一條第一項第三條第一項に該当するものとし、情状に因り同令第三條第二項により懲役と罰金とを併科すべきものとし、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二万円に処すべき旨を判示しているのであつて、その措辞の形式から見て、原審は被告人に対し、右判決時の右政令の規定を適用したものと見るの外はない。しかるに原判決の認定した本件犯行は昭和二十三年六月末頃のことであるから、該犯行当時の右政令は昭和二十四年二月一日から施行された罰金等臨時措置法第四條による特例によつて罰金の寡額を千円に変更される以前のものであり、原判決当時の右政令は右変更後のものであつたことは明瞭である。從つて原審としては刑法第六條第十條刑法施行法第三條により右新旧両法を比照し、その軽重がない場合であるから行爲時法を適用すべきものであつたのである。しかるに原審は、前述のように、裁判時法を適用したのであるから、法令の適用を誤つたものといわねばならず、原判決はこの点でも破棄は免れない。

よつて刑事訴訟法第三百九十七條によつて原判決を破棄し、同法第四百條但し書によつて更に判決をするに

被告人は公に認められた場合でないのに、昭和二十三年六月末頃から同年七月八日頃までの間肩書居宅で連合國軍の財産である天幕一枚(証第一号)シート五枚(同第二号)を藏置して所持したもので、この事実は、一、原審第一、二回公判調書中被告人の各供述記載、一、原審第二回公判調書中証人木浪和三の供述記載。一、同調書中檢察官は天幕一枚及びシート五枚を提出し、裁判所は之を証第一、二号として押收した旨の記載、一、檢事の被告人に対する供述録取書中被告人の供述記載を綜合してその証明十分である。而して被告人の右所爲を法律に照すと、昭和二十二年政令第百六十五号第一條第一項第三條第一項に該当するが本件犯行後罰金等臨時措置法第四條により右政令第三條所定の罰金の寡額を千円に変更する旨の特例が設けられたので、刑法第六條第十條刑法施行法第三條により右行爲時法と裁判時法とを比照し、軽重がないので行爲時法を適用し、情状に因り前記政令第三條第二項により懲役と罰金とを併科することとし、所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金二万円に処し、刑法第十八條により右罰金不完納の場合の労役場留置期間を主文第二項の通りに定め、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一條により全部被告人をして負担せしめることとする。

よつて主文の通り判決する。

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